著者:田中麻維
大手電機メーカー系のSierに入社後、インフラエンジニアとしてLinuxサーバーの構築や保守・運用、ソフトウェアの開発業務を経験。アイティベル入社後は、IT領域の執筆などを行う。
昨今のサイバー攻撃の高度化やクラウドサービスの利用増加に伴い、企業ではより強固なセキュリティ対策が求められています。TLSは、クラウドサービスの安全な利用に欠かせないプロトコルであり、さまざまなシーンで活用されています。
企業のセキュリティ担当者の中には、TLSという名前は聞いたことがあるものの、どこで使用されているのか、バージョンごとにどのような違いがあるのかまでは詳しく知らないという方もいるのではないでしょうか。
本記事では、TLSの仕組みや重要性、使用例などを分かりやすく解説します。TLSの利点やバージョンごとの違いも解説しますので、参考にしてください。
1. TLSとは
TLS(Transport Layer Security)とは、インターネットを介したデータの送受信を保護するプロトコルです。安全性の高い通信を実現でき、盗聴やなりすましなどを防止します。TLSの主な機能は、公開鍵認証やハッシュ化、共通鍵暗号などです。
SSLとの違い
TLSと混同しやすいのが、SSL(Secure Socket Layer)です。TLSとSSLはどちらも、インターネット上で送受信を行うデータを暗号化し、接続を認証する役割を持ちます。
基本的な仕組みは同じですが、TLSはSSLより新しいバージョンであり、SSLプロトコルのセキュリティにおける脆弱性が修正されています。
現在、SSLはほとんど使用されていません。しかし、SSLの名称が広く定着した背景があり、TLSが普及した後も、SSL証明書という名称が残っています。SSL/TLSやTLS/SSLと表記されるケースも多く見られます。
TLSとSSLの違いについて詳しく知りたい方は、下記の記事をご覧ください。
HTTPSとの違い
HTTPS(Hypertext Transfer Protocol Secure)もTLSと混同しやすい用語の一つです。HTTPSとは、ブラウザとサーバー間の通信を暗号化し、データの盗聴や改ざんを防ぐ仕組みです。
そもそもHTTPSは、HTTP(Hyper Text Transfer Protocol)にTLSのセキュリティ機能を加えたものです。「https://」で始まるURLにアクセスすると、ブラウザとサーバー間でTLSハンドシェイクが行われ、安全な通信を実現します。
TLSの仕組み
TLSは、ハンドシェイク・暗号化・認証のフェーズで構成されています。
1.ハンドシェイク
ハンドシェイクのフェーズでは、クライアントとサーバー間で通信を始めるために必要なTLSハンドシェイクを行います。公開鍵暗号方式と共通鍵暗号方式を使用し、暗号化した通信チャネルを確立します。
2.暗号化
次に、強力な暗号化アルゴリズム(AESやRSA、ECDHEなど)を使用して、データを暗号化します。データを暗号化することにより、通信内容の安全性を高めます。
3.認証
TLSでは、通信相手の身元を確認するために、デジタル証明書が用いられています。信頼された認証機関(CA)によって発行されたデジタル証明書を使用して、通信相手を認証します。
2. TLSの重要性と利点
TLSは、企業のセキュリティレベルを高めるために欠かせないものです。TLSを実装すれば、下記の利点が期待できます。
- セキュリティレベルが向上する
- データ改ざんを防止する
- 通信のプライバシーを保護する
それぞれの内容を解説します。
セキュリティレベルを向上できる
インターネット上で送受信されるデータは、常に盗聴の危険にさらされています。TLSでデータを暗号化すれば、第三者が内容を解読できない状態を作ることが可能です。これにより情報漏えいのリスクを低減でき、企業で管理している個人情報や機密情報などを安全に送信できるようになります。
データ改ざんを防止する
インターネット上で送受信されているデータは、セキュリティが脆弱だと第三者によって改ざんされるリスクがあります。
TLSでは、送受信されるデータの完全性を確認し、データの整合性を確保できます。改ざんが検出された場合は、通信が安全ではないと判断されてエラーが報告される仕組みです。この仕組みにより、不正なデータ改ざんを防止できます。
通信のプライバシーを保護する
TLSは、通信におけるプライバシー保護にも役立ちます。TLSで通信内容を外部から見えないようにすることで、ユーザーのプライバシーを保護することが可能です。そのため、ユーザーは、オンラインバンキングや電子商取引などの操作を安心して行えます。
3. TLSの適用範囲と使用例
TLSは、私たちの身近なところでも使われています。たとえば、下記の用途で使われています。
- Webサイトのセキュリティ向上
- 電子メールやファイル転送のセキュリティ向上
- VPNの構築
- 音声・ビデオ通信のセキュリティ向上
- IoT(Internet of Things)デバイスのセキュリティ向上
それぞれどのような形でTLSを使用しているのか見ていきましょう。
Webサイトのセキュリティ向上
TLSは、銀行のオンラインバンキングサイトや、ショッピングサイトの支払いページなどのセキュリティを強化する目的で使われています。ブラウザとサーバー間の通信を暗号化して、ユーザーのクレジットカードの情報や支払い情報、ログイン情報などが第三者に盗聴されるのを防ぎます。
各企業にとって、TLSでWebサイトのセキュリティを向上させることは、ユーザーの信頼性向上にも有効です。
電子メールやファイル転送のセキュリティ向上
TLSは、電子メールやファイル転送のセキュリティ向上にも役立ちます。電子メールやファイル転送の送受信を暗号化し、メール内容の盗聴や改ざんを防ぎます。
VPNの構築
VPN(Virtual Private Network)とは、インターネットを介したデータ通信を安全に行う技術のことです。TLSは、VPNを構築する際に欠かせない技術となっており、下記のシーンで活用されています。
自宅から企業ネットワークにアクセスする
VPNは、リモートワークで使われるケースが多く、従業員が自宅から企業ネットワークに安全にアクセスできる仕組みを提供します。TLSは、SSL VPN(Secure Sockets Layer Virtual Private Network)やOpenVPNなどの技術で活用されており、通信の保護に寄与しています。
公共のWi-Fiを利用する
カフェや空港などの公共のWi-Fi環境は、セキュリティが不十分なケースがあり、データが盗聴されるリスクがあります。これらの環境でTLSを実装したVPNを使用すれば、インターネット接続のセキュリティを確保できます。個人情報や機密データの漏えいリスクの軽減につながるでしょう。
音声・ビデオ通信のセキュリティ向上
ビデオ会議では、会議参加者のプライバシーを保護するために、通信の安全性を高めなければなりません。TLSを使用すれば、ZoomやMicrosoft Teams、Google Meetなどのビデオ会議中の音声やビデオデータを暗号化することで、会議の内容が第三者に傍受されるのを防止できます。
IoT(Internet of Things)デバイスのセキュリティ向上
IoT(Internet of Things)デバイスとは、スマートスピーカーやスマート照明、スマートロックなどのことを指します。これらのIoTデバイスは、TLSによってサーバーやクラウドサービスと安全に接続できます。家庭内のネットワークから送信されるデータが暗号化されることで、不正アクセスやデータ漏えいを防止することが可能です。
IoTの技術は、家庭内だけではなく、工場の運用にも役立っています。TLSは、工場のセンサーや制御装置などのセキュリティ向上に欠かせません。TLSを使用した上で中央管理システムと通信すれば、生産ラインのデータを送る、制御の命令を出すなどの通信のやり取りを安全に行えるでしょう。
4. TLSのバージョン・TLS 1.3とTLS 1.2の違い
TLSはSSL 1.0から始まり、長年に渡りバージョンアップが施されてきました。ここでは、TLSの過去のバージョンと、TLS 1.3とTLS 1.2の違いについて解説します。
バージョン | リリースされた年 | 概要 |
SSL 1.0 | 未公開 | リリース前に脆弱性が見つかって公開されなかった |
SSL 2.0 | 1994年 | 製品に実装された後に脆弱性が見つかった |
SSL 3.0 | 1995年 | 2014年に重大な脆弱性が見つかった ※現在、サーバーでの利用は非推奨 |
TLS 1.0 | 1999年 | サーバーとの通信で脆弱性が見つかった ※現在の利用は非推奨 |
TLS 1.1 | 2006年 | サーバーとの通信で脆弱性が見つかった ※現在の利用は非推奨 |
TLS 1.2 | 2008年 | ハッシュアルゴリズムにSHA-256が追加されている |
TLS1.3 | 2018年 | ハンドシェイクの暗号化、通信パフォーマンスのアップデート |
最初のバージョンであるSSL 1.0は、アメリカのNetscape社によって開発されました。しかし、脆弱性が発見されたこともあり、リリースされることはありませんでした。現在の最新バージョンは、2018年にリリースされたTLS 1.3です。
TLS 1.3とTLS 1.2の違い
最新バージョンのTLS 1.3では、旧バージョンであるTLS 1.2よりデータ通信までがより簡素な仕組みとなっています。
TLS 1.3では、ハンドシェイクメッセージが暗号化されるようになりました。クライアントとサーバーが共有する暗号化キーを早期に生成し、そのキーを使用して残りのハンドシェイクメッセージを保護します。さらに、TLS 1.2よりも少ない回数で、暗号化通信をスタートできるように進化しています。
まとめ
今回は、TLSの仕組みや重要性、使用例について解説しました。
TLSは、インターネットを介したデータの送受信を保護するプロトコルで、安全性の高い通信を実現できます。盗聴やなりすましなどを防止し、セキュリティレベルの向上に寄与します。
TLSが使われている主なシーンは下記のとおりです。
- Webサイトのセキュリティ向上
- 電子メールやファイル転送のセキュリティ向上
- VPNの構築
- 音声・ビデオ通信のセキュリティ向上
- IoT(Internet of Things)デバイスのセキュリティ向上
企業のセキュリティ担当者は、自社のWebサイトやセキュリティ対策において最新バージョンのTLS 1.3が適用されているかを確認しておきましょう。