著者:田中麻維
大手電機メーカー系のSierに入社後、インフラエンジニアとしてLinuxサーバーの構築や保守・運用、ソフトウェアの開発業務を経験。アイティベル入社後は、IT領域の執筆などを行う。
インターネットの利用が一般的となっている昨今では、ネットワーク接続のセキュリティ向上、安全性の確保が重視されています。ネットワーク接続のセキュリティ向上に役立つのが「プロキシサーバー」です。
プロキシサーバーを利用する際には、プロキシサーバーの基本的な知識だけでなく、運用時の注意点も理解する必要があります。
本記事では、プロキシサーバーの仕組みや種類、メリット・デメリットについて解説します。プロキシサーバーを運用する際のポイントも解説しますので、プロキシサーバーの導入を検討している方や、ネットワークのセキュリティを向上させたい方は、最後までご覧ください。
1. プロキシサーバーとは
プロキシサーバーとは、外部のインターネットへのアクセスを行うサーバーのことです。社内PCから外部のインターネットやWebサイトへアクセスする際に、通信を中継する役割をもちます。プロキシサーバーは、主にネットワーク接続のセキュリティ向上を目的として利用されています。
プロキシサーバーは、以下の流れで動作します。1~5のステップを経て、最終的にユーザーのブラウザにサイトが表示される仕組みです。
VPNとの違い
プロキシサーバーと同様に、セキュリティ向上を目的に利用されているのが「VPN」です。プロキシサーバーとVPNには、どのような違いがあるのでしょうか。
VPN(Virtual Private Network)とは、インターネット上に仮想の専用線を設定し、特定の人のみが利用できる専用ネットワークのことを指します。VPNを利用すれば、インターネットでやりとりするデータが暗号化され、利用しているPCのIPアドレスを隠すことが可能です。
プロキシサーバーとVPNの大きな違いは、プロキシサーバーではトラフィックの暗号化は行われない点です。また、プロキシサーバーはアプリケーションレベルで動作して、特定のアプリケーションやブラウザのトラフィックのみに対応するのに対し、VPNはOSレベルで動作します。
VPNの仕組みやメリット、設定方法について以下の記事で詳しく解説しています。VPNの詳細を知りたい方は参考にしてください。
UTMとの違い
UTM(Unified Threat Management)とは、複数のセキュリティ機能を1つのデバイスに統合したセキュリティシステムのことです。VPNと同じく、セキュリティ向上につながるソリューションであり、多くの企業で導入されています。
プロキシサーバーとUTMの違いは、使用目的が異なる点です。プロキシサーバーは、主にWebアクセスの制御とキャッシング、匿名性の確保を目的としています。それに対し、UTMは、ネットワーク全体のセキュリティを包括的に管理し、さまざまな脅威から保護することを目的としています。
そのため、プロキシサーバーは中小規模のネットワーク管理向けで、UTMは大規模なネットワークや複数のセキュリティ対策を一元管理したい場合に適しているといえるでしょう。
UTMの機能やメリットについては、以下の記事で詳しく解説しています。UTMの詳細を知りたい方は参考にしてください。
キャッシュサーバーとの違い
キャッシュサーバーは、Webサイトで提供されているコンテンツを複製・保存し、本来コンテンツを提供するサーバーの代わりにコンテンツを配信します。保存したデータを再利用することにより、通信の高速化を図ることが可能です。
キャッシュサーバーもプロキシサーバーと混同しやすい仕組みですが、使用する目的が異なります。プロキシサーバーの主な目的がセキュリティやプライバシーの向上であるのに対し、キャッシュサーバーはユーザーに対してコンテンツやデータを効率的かつ素早く提供することを目的としています。
2. プロキシサーバーの種類
プロキシサーバーの種類は、フォワードプロキシ、リバースプロキシの2種類に分けられます。この章では、種類ごとの特徴や利用シーンについて解説します。
フォワードプロキシ
フォワードプロキシは、端末とWebサーバーの間に設置するプロキシサーバーです。社内LAN側に設置するのが一般的で、アクセス制御やセキュリティチェック、匿名性の確保等の効果が期待できます。
なお、フォワードプロキシはプロキシサーバーの主流となっており、多くの環境で使用されています。
リバースプロキシ
リバースプロキシは、インターネットとWebサーバーの間に設置するプロキシサーバーです。Webサイトへのリクエストを代わりに受信するために設置され、Webサーバーのパフォーマンスやセキュリティ向上に役立ちます。
なお、リバースプロキシは「逆プロキシ」とも呼ばれます。
3.プロキシサーバー設定の種類
前章でプロキシサーバーの種類を2つ説明しましたが、設定方法の違いにより、さらに明示型プロキシと透過型プロキシの2種類に分けられます。
この章では、明示型プロキシと透過型プロキシの特徴について解説します。
明示型プロキシ
明示型プロキシは、クライアントPC側でプロキシ設定を実施するプロキシサーバーです。端末から直接設定できます。
明示型プロキシでは、プロキシサーバーを経由するトラフィックが明確に定義されているため、特定のトラフィックを管理しやすいという特徴をもちます。
透過型プロキシ
透過型プロキシは、プロキシの証明書をPCに直接インストールして設定するプロキシサーバーです。プロキシ設定の手間を省きたいときによく使われています。
4. プロキシサーバーのメリット
プロキシサーバーには、多くのメリットがあります。主なメリットは、以下の6つです。
匿名性を担保できる
- アクセス履歴を確認できる
- サーバーの負荷を分散できる
- 不正なサイトへのアクセスを制限できる
- サイトの表示を高速化できる
- ウイルスチェックを行える
それぞれのメリットについて詳しく解説します。
匿名性を担保できる
プロキシサーバーを経由してWebサーバーにアクセスする場合は、際に個人のIPアドレスではなく、プロキシサーバーのIPアドレスが使われます。外部から個人のIPアドレスを特定しづらくなるため、匿名性が向上します。
アクセス履歴を確認できる
プロキシサーバーは、ユーザーのインターネットアクセスの履歴を記録します。そのため、どのユーザーがどのサイトにアクセスしたかを確認することが可能です。
アクセス履歴は、不正アクセスの有無についての確認や、サイバー攻撃を受けた際の調査など、さまざまな方法で活用できます。普段から社員のインターネット使用状況を監視し、適切な利用を促すといった活用法もあります。
サーバーの負荷を分散できる
サーバーの負荷を分散できる点も、プロキシサーバーのメリットの一つです。アクセスリクエストを複数のサーバーに分散し、特定のサーバーへの負荷を軽減できます。サーバーの過負荷を防ぐことによって、安定したサービス提供が可能になるでしょう。
不正なサイトへのアクセスを制限できる
プロキシサーバーは、特定のWebサイトへのアクセスを制限するフィルタリング機能も利用できます。有害なサイトへのアクセスをブロックし、ユーザーが安全にインターネットを利用できる環境を構築できます。
サイトの表示を高速化できる
プロキシサーバーは、アクセスしたサイト内のファイルをキャッシュとして保存します。次に同じページにアクセスする際には、プロキシサーバーからデータを提供するため、ページ表示の高速化につながります。ユーザーはスムーズにWebサイトを閲覧することが可能です。
ウイルスチェックを行える
ウイルスチェックの機能を有するプロキシサーバーを利用することで、ユーザーがアクセスするWebサイトをスキャンし、ウイルスやマルウェアの感染を未然に防止できます。ウイルスチェックの機能を搭載したプロキシサーバーは、企業のネットワークセキュリティを強化するために、特に有効な手段といえるでしょう。
5. プロキシサーバーのデメリット
プロキシサーバーの使用を検討する際には、どのようなデメリットやリスクがあるのかも理解しておきましょう。
プロキシサーバーには、以下のデメリットが存在します。
- 偽サイトへ誘導されるリスクがある
- アクセス履歴を見られるリスクがある
- 通信速度が低下するケースもある
偽サイトへ誘導されるリスクがある
近年では、プロキシサーバーがサイバー攻撃のターゲットになるケースがあります。プロキシサーバーがサイバー攻撃の標的になると、ユーザーは本物のサイトではなく偽のサイトに誘導され、個人情報を盗まれるといった被害につながります。
このような被害を避けるためには、信頼できるプロキシサーバーを選ぶことが重要です。利用実績が少ないプロキシサーバーや、知名度が低いプロキシサーバーは選ばないようにしましょう。
アクセス履歴を見られるリスクがある
プロキシサーバーはユーザーのアクセス履歴を記録できる反面、第三者からアクセス履歴を閲覧されるリスクもあります。特に、信頼性の低いプロキシサーバーでは、リスクが高まるでしょう。
アクセス履歴が漏えいすると、プライバシーが侵害される危険性があります。また、アクセス履歴から得た情報やデータが悪用され、迷惑メールを大量に送りつけるといった攻撃を受けやすくなるでしょう。業務に支障が出るようなトラブルに発展するおそれもあります。
通信速度が低下するケースもある
プロキシサーバーを介することで、直接Webサイトへアクセスする場合よりも大幅に通信速度が低下するケースもあります。特に、過負荷状態にあるプロキシサーバーや、距離が遠いプロキシサーバーを利用する場合は、通信速度の低下が顕著になることがあります。
6. プロキシサーバーを利用する際のポイント
プロキシサーバーを利用する際に大切なポイントは以下の3つです。
- 安全性が高いプロキシサーバーを利用する
- 利用目的を明確にする
- 認証を有効化する
それぞれのポイントについて解説します。
安全性が高いプロキシサーバーを利用する
プロキシサーバーを利用する際には、まず安全性が高いプロキシサーバーを選ぶことが重要です。信頼できるプロバイダーが提供するプロキシサーバーを選びましょう。安全性・信頼性の高いプロキシサーバーは、十分なセキュリティ対策がなされているため、個人情報やアクセス履歴の漏えいリスクが低くなります。
一方、無料で公開されているプロキシサーバーは、誰でも簡単に利用できますが、セキュリティが不十分なケースが多く見られます。セキュリティが不十分だと、悪意のある攻撃者に利用されるリスクが高くなるでしょう。
安全性が高いプロキシサーバーを選ぶには、評判やレビューを参考にし、有料のものを選定するのがおすすめです。利用する際には、プロキシサーバーのソフトウェアが定期的に更新されていることや、セキュリティパッチが適用されていることを確認しましょう。
利用目的を明確にする
利用目的を明確にすることも、重要なポイントです。プロキシサーバーを利用する目的を明確にすれば、適切なプロキシサーバーを選べるようになります。たとえば、Webフィルタリングを目的とする場合は、フィルタリング機能が強力なプロキシサーバーを選ぶようにしましょう。
認証を有効化する
プロキシサーバーを設定する際には、IDとパスワードによる認証が有効になっているかもチェックしましょう。認証を有効にすることで、プロキシサーバーにアクセスできるユーザーを制限し、セキュリティを強化することが可能です。
特に、企業でプロキシサーバーを利用する際には、特定の社員以外がプロキシサーバーを利用できないように設定する必要があります。プロキシサーバーの利用に制限をかけることで、不正利用を防止することが可能です。
また、社員のIDとパスワードは定期的に変更するようにしましょう。
まとめ
プロキシサーバーは、社内の端末から外部インターネットへアクセスする際に、通信を中継する役割を担います。主に、ネットワーク接続のセキュリティ向上を目的としており、使用することで以下のメリットがあります。
- 匿名性を担保できる
- アクセス履歴を確認できる
- サーバーの負荷を分散できる
- 不正なサイトへのアクセスを制限できる
- サイトの表示を高速化できる
- ウイルスチェックを行える
プロキシサーバーを選定する際には、安全性・信頼性が高いかどうかをチェックしましょう。また、企業でプロキシサーバーを利用する際には、IDとパスワードによる認証を有効にし、特定の社員以外の利用を制限するのがポイントです。