著者:田中麻維
大手電機メーカー系のSierに入社後、インフラエンジニアとしてLinuxサーバーの構築や保守・運用、ソフトウェアの開発業務を経験。アイティベル入社後は、IT領域の執筆などを行う。
AES256は暗号化方式であるAESの一種で、もっともセキュリティ強度が高い方式です。
企業活動では自社内の重要なデータを保護し、情報漏えいや改ざんを防ぐための対策が欠かせません。そこで役立つのが、AESのなかでも特に安全性の高いAES256です。
しかしAES256を適切に活用するには仕組みや機能、活用方法などを理解する必要があります。本記事ではAES256の概要やメリット、注意点などを詳しく解説します。
1. AES256とは
AES256とは、256ビットの暗号鍵を用いるAES暗号化方式です。AESで用いられる暗号鍵のなかでもっとも長い鍵長であるため、攻撃者に鍵を割り出されにくく、セキュリティ強度がもっとも高くなります。
AES256はWPA2やSSL/TLS、Zipファイルの暗号化などで活用されています。
WPA2の詳細は、以下の記事をご覧ください。
SSL/TLSの詳細は、以下の記事をご覧ください。
AESとは
AES(Advanced Encryption Standard)とは、米国立標準技術研究所(NIST)が2001年に米連邦政府標準として策定した暗号化方式を指します。データの送信者と受信者が共通の暗号鍵を用いて暗号化と復号を行う共通鍵暗号です。
AES以前はDES(Data Encryption Standard)という暗号化方式が広く使われていましたが、鍵長が短いので、セキュリティ強度は低いという難点がありました。そこでDES以上のセキュリティ強度をもつAESが策定され、現在まで標準的な暗号化方式として利用されています。
AESの詳細は、以下の記事をご覧ください。
AES256と他のAESとの違い
AESの鍵長は256ビットのほかに128ビット、192ビットがあり全部で3種類です。鍵長が長いほど鍵のパターンが多くなるため、AES256がもっとも安全性が高くなります。一方で鍵長が長い分、暗号化や復号には多くの時間がかかり、パフォーマンスは低くなります。
AES128やAES192でも十分な安全性が期待できますが、長期間にわたり高い安全性を確保したい場合はAES256が最適です。
2. AES256の仕組み
では、AES256はどのように機能するのでしょうか。その仕組みを解説します。
AESの変換
AESは次の4種類の変換を1セットとしています。
- SubBytes:データの各バイトをS-boxと呼ばれる置換表を使って置き換える。
- ShiftRows:SubBytesの出力を4×4バイトの行列とし、1行ごとに左へシフトする。
- MixColumns:各列のデータを混合する。
- AddRoundKey:ラウンド(変換を行う1つのサイクル)ごとに専用に作られた鍵を、現在のデータに追加する。
AES256のラウンド数
AES256は上記4種類の変換のラウンドを14回繰り返します。ラウンドを繰り返すほどデータが複雑化されるため、高いセキュリティが提供されます。
鍵長ごとにラウンド数は異なり、AES128は10回、AES192は12回です。
3. AES256のメリット
AES256のメリットとして、主に次のようなものが挙げられます。
堅牢性
AES256は2の256乗の鍵パターンをもちます。2の256乗は天文学的な数値で、現代のコンピューター技術を使って、ブルートフォース(総当たり)攻撃しても、現実的に暗号鍵を解読できないとされています。
AES256の最大のメリットはこの堅牢性であり、さまざまなサイバー攻撃からデータを保護するために活用できます。
情報漏えいリスクの低減
AES256で暗号化したデータは、復号するために必ず鍵が必要です。鍵がなければアクセスもできないため、物理的にデータを盗まれたり、不正アクセスによって情報が漏えいしたりするケースも防げます。
4. AES256の活用分野
AES256は具体的に次のような分野で活用されています。
通信の暗号化
インターネット上でデータを安全に転送するために広く活用されています。たとえばWebサイトのTLS/SSL暗号化、VPN(Virtual Private Network)による安全なリモートアクセス、電子メールの暗号化などが挙げられます。AES256により通信中のデータが盗聴・改ざんされるリスクを低減できます。
VPNの詳細は、以下の記事をご覧ください。
ストレージサービス
ハードディスクの暗号化、クラウドストレージサービス(Google Drive、OneDriveなど)でのデータ保護に使用されています。物理的なデバイスの紛失や盗難による漏えいリスク、クラウド上でのデータ漏えいを防ぎます。
モバイルセキュリティ
iOSやAndroidデバイスは、内部データの暗号化にAES256を使用しており、デバイスの盗難・紛失時にもユーザーデータを保護します。また、アプリケーションからのデータ漏えいを防ぐために、AES256を使用してアプリケーション内のデータを暗号化する場合もあります。
5. AES256を運用するうえでの注意点
AES256は非常に堅牢な仕組みですが、リスクはゼロではありません。次のような点に注意しましょう。
鍵の管理
データが暗号化されていても、復号鍵が漏えいすると復号されてしまいます。暗号化した情報と復号鍵を分離し、漏えいを防止する適切な措置が必要です。また、暗号化された情報と復号鍵を遠隔操作で削除できる機能を備えているとよいでしょう。
パフォーマンス
鍵穴が長いほど、暗号化・復号に時間や費用がかかり、パフォーマンスは低くなります。そのため、リソースが限られた環境では、パフォーマンスへの影響を考慮すべきです。
まとめ
AES256は、AESのなかでももっとも鍵長が長く、高いセキュリティを提供します。長期間にわたり厳重に保護したいデータには、AES256の活用が有効です。しかし、復号鍵の管理やパフォーマンスの懸念など、注意すべき点もあります。AESの特徴を理解したうえで、適切な運用を検討してみてください。